- 2020/03/09
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感染症流行の歴史について
●新型コロナウイルスによる肺炎が世界に広がり、各国とも対策に追われています。
人類の歴史は感染症との戦いの歴史であり、
衛生状態の向上やワクチン治療薬の開発などを通じ、制圧に成功した感染症もある一方、
未知の病原体による新興感染症の流行は今も繰り返されています。
●古くから知られる感染症にベストがあります。
東ローマ帝国などでの流行の記録が残り、
14世紀には世界的な流行で1億人が死亡したとされ、
「黒死病」と呼ばれて恐れられてきました。
悪性の空気が感染源と考えられた時代があり、
17世紀のイタリアでは医師は全身をガウンで覆い、
空気の浄化作用を期待して
香辛料を詰めたくちばし状のマスクをして
治療にあたったといいます。
●1918~19年に世界で流行し、2千万~5千万人の死者を出した
インフルエンザ「スペインかぜ」もよく知られています。
第一次世界大戦の最中で、米軍の兵士の間で流行が始まり、
船で欧州に移動した結果、戦場で各国の軍隊へ広がったようです。
●インフルエンザの感染経路は主に、
感染者が触れたものをつうじた「接触感染」と、
せきやくしゃみを通じた「飛沫感染」です。
それはスペインかぜの当時から知られていました。
日本の内務省衛生局が公表した「流行性感冒」には
「病人や咳をする人に近寄らない」「人混みを避ける」
「手ぬぐいなどで鼻や口を覆う」といった、
現在とほぼ同じ対策内容が盛り込まれていました。
しかし、当時は医学的な対処には限りがあり、
日本でも流行を食い止められず、38万人の死者が出ました。
●近年は様々な病原体の発見とワクチン開発が相次ぎ、
感染症対策は急速に発展します。
例えば天然痘は、世界保健機関による撲滅計画が進み、
1980年についには生活に至ります。
とはいえ、病原体が不明な感染症は今も度々流行を繰り返しています。
2002年に香港を中心に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)や
アフリカのエボラ出血熱などです。
●コロナウイルス病原体とするSARSは、世界で8千人以上が感染、
約800人が死亡しました。この時話題になったのが、
1人で極端に多くの人に感染させる「スーパースプレッダー」と呼ばれる事例です。
専門誌に掲載された論文には、
中国の病院で別の病気の治療目的で受信した男性が
33人に感染させた事例などが紹介され、
香港とシンガポールでは感染者の7割以上が
スーパースプレッダーからの感染とみられます。
●初期のスーパースプレンダーの事例に腸チフスのメアリーがあります。
1900年代初頭にアメリカニューヨークで流行した
腸チフスの感染源となった1人のアメリカ人です。
メアリーは症状の出ない不顕性感染者で、
00〜07年に1人で51人を感染させ、
うち3人が死亡しました。
●新型コロナウイルスは中国湖北省武漢市の市場で野生動物から人に感染し、
人から人に感染するに至ったとみられています。
ウイルス学が専門で、感染症の歴史に詳しい山内一也東京大名誉教授によると、
人間の体内にいるウイルスはもともと動物から来ており、
歴史的にみれば、野生動物との接触によって
人に感染するウイルスは繰り返し出現しました。
「今回はウイルスそのものより、人口が密集し、
人やモノが国境を越えて地球規模で移動するグローバル化が
かつてなく進む中国で起きたことに特徴がある」と話しています。
~朝日新聞社「be on Saturday」3月7日記事より転載~